TOPIX見直し制度の第二段階が今月開始しました。
今回の改革により、TOPIX採用は「旧東証一部上場企業なら採用される既得権」から「毎年維持しなければならない目標指標」に、さらには「スタンダード・グロース市場からでも目指すことが可能な目標」へと変化しました。
ここでは、TOPIX見直し制度について改めて解説するとともに、移行対象となった場合の対応や、逆に新規採用を目指す場合の注意点などを解説していきます。
TOPIXとは?他の指標との違いも解説
まず、TOPIXとはどのような指標なのか、解説していきます。
TOPIXとは、JPX総研によって出している、1600以上の銘柄の株価を用いた浮動株ベースの時価総額を加味して算出した指標です。同じく知られている日経平均株価が株価ベースの平均値なのに対して、TOPIXは各企業の市場規模を加味し、幅広い業種から銘柄を採用しているため、日本経済全体の傾向をつかむのに向いています。
参考 日米の代表的な株価指数
| 日本 | 米国 | |||
|---|---|---|---|---|
| TOPIX東証株価指数 | 日経平均日経平均株価(日経225) | S&P500S&P 500種指数 | ダウダウ工業株30種平均 | |
| 算出元 | JPX総研 | 日本経済新聞社 | S&P Dow Jones Indices | S&P Dow Jones Indices |
| 構成銘柄数 | 約1,600超移行措置銘柄を含む | 225銘柄 | 約500社 | 30銘柄 |
| 計算方法 | 時価総額加重型 浮動株ベースの時価総額で算出。単位は「ポイント」 |
株価平均型 株価をもとに算出。単位は「円」 |
時価総額加重型 浮動株ベースの時価総額で算出 |
株価平均型 株価合計を「除数」で割って算出 |
| 銘柄の選び方 | 流動性と規模のルールで機械的に選定。年1回入替 | 日経新聞社が流動性・業種バランスで選定 | 委員会が時価総額・流動性・黒字などで選定 | 委員会が米国を代表する優良企業を選定 |
| 特徴 | 市場全体を幅広く反映。機関投資家のベンチマークとして定着 | 株価の高い値がさ株の動きに左右されやすい | 米国株式市場の約8割をカバー。世界の運用の代表的指標 | 1896年開始の最古級の指数。少数銘柄で値動きが偏りやすい |
TOPIX見直し制度とは?
TOPIX見直しとは、日本株の代表的なベンチマークであるTOPIXを「投資対象として機能性の高い指数」に作り替えるため、JPX総研が2022年から段階的に進めている改革です。
TOPIXは1969年の算出開始以来、旧東証一部の全銘柄で構成されてきました。その結果、時価総額や売買代金が小さく、機関投資家にとって実際には売買しにくい銘柄も多く含まれていました。2022年4月の市場区分再編(プライム・スタンダード・グロース)を機に、TOPIXと市場区分の紐づけを外し、流動性を軸に構成銘柄を選び直す方針が打ち出されました。
この見直しは2段階で進められています。
- 第一段階(2022年10月〜2025年1月):流通株式時価総額100億円未満の銘柄について、10回に分けてウエイトを引き下げ、2025年1月末に除外。構成銘柄は約2,200から約1,700に減少しました。
- 第二段階(2026年10月〜):全市場を対象に、売買代金回転率と浮動株時価総額による年1回の定期入替を導入。今回10月7日に公表されたのが、その初回の結果です。
第一段階が「一度きりの絞り込み」だったのに対し、第二段階は「毎年の入替」を伴う点が大きな違いです。
今回の改革により、「TOPIXの維持が毎年の目標として求められるようになる」と言えます。
どのような企業が移行措置の対象になるのか
移行措置の対象になりやすいのは、「浮動株時価総額が小さい」か「売買が少ない」企業です。
具体的には、次のような特徴を持つ企業が該当しやすいと考えられます。
- 時価総額が中小型の企業:浮動株時価総額の累積で上位97%に入らない層。相場全体が上がるとボーダーラインも切り上がるため、自社株価が横ばいでも対象になりえます。
- 浮動株比率が低い企業:政策保有株(持ち合い株)、創業家・親会社などの大株主、自己株式の比率が高いと、時価総額に比べて浮動株時価総額が小さくなります。
- 売買が少ない企業:アナリストカバレッジや投資家の注目度が低く、日々の売買代金が浮動株時価総額に比べて小さい企業は、回転率基準に抵触するおそれがあります。
今回の683銘柄は、現行の構成銘柄(8月末時点で1,636銘柄)の4割強にあたり、プライム市場上場企業であってもTOPIXから外れうることが明確になりました。一方、スタンダード・グロース市場からも、流動性と規模を満たした企業が新たに採用されています。市場区分ではなく、「投資家にとって売買しやすい規模と流動性があるか」で選ばれる仕組みに変わったといえます。
移行措置対象になるとどうなるのか
(新規35・移行措置683)
ウエイト低減が開始
ウエイト低減が完了
以降は毎年実施
移行措置銘柄になっても、すぐにTOPIXから外れるわけではありません。2026年10月から四半期ごとに8回、12.5%ずつウエイトが引き下げられ、2028年7月の低減完了をもって実質的に除外されます。
| 時期 | 2026年10月 | 2027年1月 | 2027年4月 | 2027年7月 | 2027年10月 | 2028年1月 | 2028年4月 | 2028年7月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 移行係数 | 100% | 87.5% | 75% | 62.5% | 50% | 37.5% | 25% | 12.5% |
移行係数とは、TOPIXの構成比率に占める割合のことであり、段階的に低減することにより、TOPIX銘柄から徐々に除外されます。
ただし、2027年10月の再評価で継続基準を満たせば、その時点でウエイト低減が止まります。
除外された場合の影響
TOPIX除外の影響として、主に次の3点が挙げられます。
- パッシブ資金の売り:TOPIX連動のパッシブ運用は、構成銘柄時価総額の約1割強を保有しているとされます(2024年3月末時点の大和総研推計で約11.8%)。ウエイト低減のたびに、指数連動ファンドの売りが発生します。
- 株価のアンダーパフォーム:第一段階で除外対象となった銘柄は、ウエイト低減の進行に合わせてTOPIXを大きく下回る株価推移となったと指摘されています。
- 株主構成・IRへの影響:TOPIXをベンチマークとするアクティブ投資家にとって、指数外の銘柄は投資しにくくなる場合があります。株主構成が変わり、IR・SR活動の前提も変わります。
さらに、一度外れると再採用の条件(追加基準)は継続基準より厳しく設定されています。「外れてから戻る」より「外れない」ほうがはるかに容易だという点は押さえておくべきです。
移行措置となった場合に、どのような対応をとるべきか
移行措置銘柄となった企業にとって、最大の山場は2027年10月の再評価です(基準日は2027年8月最終営業日)。残された期間は約10か月しかなく、基準を満たすには「浮動株時価総額」と「売買代金」の両方を引き上げる必要があります。
8月末
1. 現状の把握とギャップの試算
自社の浮動株時価総額と年間売買代金回転率を算出し、継続基準とのギャップを数字で把握します。
ここで重要なのが、移行のボーダーラインが相対的に設定されているため、具体的な数値は相場水準で動く、という点です。相場の動きに合わせて複数シナリオで試算しておくことが必要になります。
2. 浮動株比率の引き上げ
- 政策保有株の縮減(持ち合い解消)を、相手先と協議しながら計画的に進める
- 大株主の売り出しや、自己株式を活用した株式の放出を検討する
3. 株価・企業価値の向上
- 資本コストや株価を意識した経営の開示を充実させ、成長戦略と資本政策の一貫性を示す
- 株主還元方針を明確にし、ROEの改善道筋を示す
4. 流動性の向上
- 株式分割で投資単位を引き下げ、個人投資家の売買を促す
- 決算説明会・スモールミーティングの拡充、英文開示の強化で、国内外の機関投資家との接点を増やす
- アナリストカバレッジの獲得に向けた働きかけを行う
5. 株主構成の変化への備え
仮に除外となった場合も見据え、TOPIXに縛られないアクティブ投資家や個人投資家の開拓を並行して進めます。
一方、今回継続採用や新規採用となった企業も安心はできません。2028年以降は毎年入替が行われるため、流動性と企業価値を維持・向上させる取り組みを継続的に行うことが求められます。
TOPIXへの新規参入をするにはどうすればいいのか
TOPIXに元々採用されていなかった企業にとって今回の改革は、プライム市場に移行せずとも採用の可能性が生まれた、大きなチャンスだと言えます。
TOPIXへの新規参入を目指す場合にも同様に、浮動株時価総額と売買代金の双方引き上げを行います。しかし、この場合は継続より厳しい基準が設けられていること、期日が異なることに注意が必要です。新規参入を目指す場合のポイントは以下の4つです。
新規採用の基準は、継続の基準より厳しい:回転率は0.2以上(継続は0.14以上)、浮動株時価総額は上位96%以内(継続は97%以内)です。
次の機会は2028年10月:2027年10月に行われるのは、移行措置銘柄の再評価だけです。新規採用のチャンスとなる次の定期入替は2028年10月(基準日は2028年8月末)で、以降は毎年です。準備期間は長い一方で、間が空く点には注意が必要です。
新規上場は例外的に早く入れる:新規上場銘柄で浮動株時価総額が十分大きいもの(累積上位95%の水準を上回るもの)は、定期入替を待たずに随時追加されます。IPOを控えた企業は注意が必要です。
採用前後の株価の動きに注意:採用への期待で発表前から株が買われ、実際の入替後は「材料出尽くし」で下がる、という動きがよく見られます。採用そのものをゴールにせず、その後も評価され続ける体制を作ることが大事です。
まとめ
今回の改革により、移行対象となった企業と新規採用を目指す企業のどちらにとっても、「長期保有株主の獲得」に加えて、「売買取引回数の増加、維持」もIR戦略の目標となるようになりました。
今後は日々の流動性向上を目指し、個人投資家、海外投資家、アクティブ運用など、投資家層を広げることも有効な手段となるでしょう。
また、浮動株比率を上げる施策の多くは経営判断や資本政策の領域です。持ち合い株の解消、大株主の売り出し、自己株式の扱いなどがそれにあたります。株式分割も取締役会の決議事項です。このことから、IR担当者の施策における役割は、TOPIXの基準とのギャップを数字で示し、経営陣に対応を促す「社内への働きかけ」が中心になるといえます。
今回の見直しは、IRそのものの目標や社内でのIR担当のありかたが変わった、大きな改革と言えます。
