フィデリティの資本関係や投資ポートフォリオを解説

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代表取締役

吉田 有輝

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代表取締役

吉田 有輝

有限責任あずさ監査法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティングにて会計監査や財務デューディリジェンス等の業務に従事した後、ベンチャー投資会社の株式会社REAPRAにて投資先支援や投資実行業務、バリュエーション等を実施。 2022年に株式会社Mutualを設立、代表取締役に就任。創業来、IR支援を中心に事業展開している。 「決算書の読み方 最強の読み方(ソシム、2020年)」の著者。公認会計士。

これから、コラム内で「機関投資家解説シリーズ」を始めていきたいと思います。
第1弾は、フィデリティ。大量保有報告書でもよく見かけるかと思いますが、日本のマーケットでも一際存在感の大きいロングオンリー投資家であり、多くの方が会いたい投資家として真っ先に想起される投資家の一つではないかと思います。

そんなフィデリティについて、資本関係や日本株の投資ポートフォリオ等について簡単んいまとめていきます。

1フィデリティの概要

まず、フィデリティの歴史を簡単にまとめておきます。

フィデリティは、1930年に設立されたフィデリティ・ファンドを起源としています。1943年にエドワード・C・ジョンソン2世が同ファンドを買収し、1946年に運用助言会社としてFidelity Management & Research Company(現FMR LLC)を設立しました。
ジョンソン氏は、当時主流だった資産保全型の運用から脱却し、成長を重視する投資戦略を打ち出しました。特に新興企業の株式に積極的に投資し、1950年代にはゼロックスやポラロイドといった、後に大きく成長する企業にいち早く注目しています。
1970年代には息子のネッド・ジョンソン3世が経営を引き継ぎ、マネーマーケットファンドの導入など、商品ラインアップを拡充しました。1996年には運用資産が5,000億ドルを突破しています。

その後、三代目となるアビゲイル・ジョンソン氏が2014年にCEOに就任し、現代のフィデリティを牽引しています。近年はインデックスファンドとの競争が激化する中で、商品多様化やテクノロジー強化を進めており、2024年には売上が135億ドル(約1.9兆円)となっています。

このようにフィデリティは、三世代にわたる家族経営の中で一貫して「成長を生む投資」にこだわり、時代の変化に柔軟に対応してきた資産運用会社だと言えます。

2フィデリティの資本関係

普段から大量保有報告書をチェックしている方は、「フィデリティ投信」と「エフエムアールエルエルシー(以下、FMR)」を見たことがあるのではないでしょうか。
これらは全然違う会社に見えるかもしれませんが、いずれも「フィデリティ系列」だと言えます。提出者がFRMとなっている大量保有報告書も、事務上の連絡先はフィデリティ投信になっていることからも分かります。

フィデリティ投信の大量保有報告書

FMRの大量保有報告書

この点、フィデリティ投信は、FIL Ltd(Fidelity International)という英国の会社を親会社とした会社で、米国のFMR LLCとは異なります
FILは、米国のFMRの国際部門を分社化する形で1969年に設立されていますが、1980年に米国のFMRから独立し、現在はFILの経営陣とジョンソン家が主要株主となっています。つまり、フィデリティ投信とFMR LLCは、同じフィデリティ系列ではあるものの、別のグループ会社であるということですね。

なお、それぞれの資本関係を判明している限りで記載すると、以下の通りとなります。

2-1フィデリティ投信系列

・ジョンソン家(約39%保有)及びFILの経営陣等
  ↓
・FIL Limited(非上場)
  ↓100%
・FIL Asia Holdings Pte Limited (非上場)
  ↓100%
・FIL Japan Holdings (Singapore) Pte Limited (非上場)
  ↓100%
・フィデリティ・ジャパン・ホールディングス株式会社(非上場)
  ↓100%
・フィデリティ投信

2-2FMR LLC系列

・ジョンソン家(SeriesB49%)、従業員等(SeriesA51%)
  ↓
・FMR LLC
  ↓100%
・Fidelity Management & Research Company LLC
  ↓100%
・フィデリティ・マネジメント&リサーチ・ジャパン株式会社

大量保有報告書が提出される際に、提出者の氏名又は名称が「フィデリティ投信」であれば、日本法人のファンドマネジャーたちが投資判断を行っており、「FMR LLC」であれば、USのファンドマネジャー等が投資判断を行っていると考えられます。
以降では、それぞれの投資母体が、日本においてどのような会社に投資を行っているのかを概観していきます。

3フィデリティ投信のポートフォリオ

フィデリティ投信は、執筆日現在、日本企業を投資対象とする投資信託が合計15本存在します。これらの投資信託は投資先の情報が公開されていることから、公開情報を元に、純資産額が一定以上ある主要なファンド8本の投資先数や平均投資額を集計しました。
なお、表中の時価総額は、2025年5月30日時点の終値ベースのものです。

これを見ると、以下のことが読み取れます。

  • 時価総額が1,000億円を超えてくると、一気に投資対象企業数が増える
  • 時価総額が500億〜1,000億円でも、1社あたり数億円の投資を受けている(中でも、フィデリティ・日本小型株・ファンド」は平均投資額が大きい)

なお、参考までに、「フィデリティ・日本小型株・ファンド」における、時価総額1,000億円未満の投資先は以下のとおりです。

その他にも、フィデリティ投信の各ファンド毎における投資内訳をまとめたエクセルデータをまとめているので、ご覧になりたい方は、以下のページよりダウンロードしてください。
自社と同様の時価総額規模の会社がどのファンドから組み入れられているのか、そのファンドは他にどのような会社に投資しているのか、等を分析した上で、アプローチすべき投資家を絞り込んでいく作業に活用できるかと思います。

4FMR LLCのポートフォリオ

先述のとおり、FMR LLCは米国拠点の運用会社であり、日本では、このFMRのお金を運用しているのはFidelity Management & Research Company LLCやフィデリティ・マネジメント&リサーチ・ジャパンになるので、そこに所属しているファンドマネジャーやアナリストと会う時は、資金の出元はFMRであるということを意識するとよいかと思います。

FMRのポートフォリオを分析するにあたっては、以下の方法があります。

  1. 大量保有報告書を確認する
  2. Bloomberg等のデータサービスを利用する

まず、1の方法は誰でも確実に見ることができます。
例えば、株主プロというサイトでFMR LLCのページを見ると、以下のように提出先企業の一覧を見ることができます。

このページの各社の大量保有報告書ないし変更報告書から、投資額や保有比率を見ることができるので、気になる会社の資料をチェックすることで、直近の保有比率の変化等を分析することができます。

2の方法は、ファンドレポートや大量保有報告書、有価証券報告書上の大株主の状況等の公開情報をアグリゲートしているデータベンダーのサービスを利用する方法で、大量保有報告書以上の情報を見ることができます。
例えば、弊社ではLSEGのWorkspaceを利用していますが、こちらからFidelity Management & Research Company LLCの保有一覧を見ると、各社の投資額と保有比率を見ることができます。
なお、時価総額1,000億円未満で、大量保有報告書が提出されており、1社あたり投資額が20億円を超えている投資先の一覧は以下のとおりです。

業種別の社数は以下のとおり。

このポートフォリオについて、各社どのような共通点があると考えられかをChat GPTに聞いたところ、以下の回答が返ってきました。

時価総額レンジが“SMID”
多くが時価総額 300〜2,000 億円程度のスモール/ミッドキャップで、TOPIX コア銘柄ほどは機関投資家のカバレッジが厚くありません。情報ギャップが残りやすく、アクティブファンドにとってリサーチ優位性を確保しやすいゾーンです。

キャッシュリッチ & 低 PBR
コロナ後の業績回復でフリー CF が積み上がる一方、株価純資産倍率(PBR)は 1 倍前後と割安に放置されている企業が多い――東証が 2023 年以降 PBR<1 倍企業に改善要請を強めている背景もあり、再評価の余地が大きい領域です。layers.co.jp

ニッチ × 国内需要安定型ビジネス

  • 産業・流通系:ユアサ商事(産業機械商社)やソフトウェア・サービス(医療 IT)など、BtoB で高いシェアを持つ“縁の下”企業。yuasa.co.jpsofts.co.jp
  • 生活・消費系:カーブス HD(女性向けフィットネス)や薬王堂 HD(東北地盤のドラッグストア)など、地域密着のリカーリング収益モデル。curvesholdings.co.jpja.wikipedia.org

ガバナンス改善フェーズ
無借金経営・自社株買い余力を持つ企業が多く、英語開示や指名/報酬委員会の設置など、機関投資家フレンドリーな施策が進行中。

なお、どのファンドから投資されているのかを見るためには、フィデリティのファンド検索サイトから検索することもできますが、かなりファンドの本数が多く、かつ日本株ファンド以外のファンドからも日本株は投資されているので、ここから分析するのは相当難しいと考えられます。
そのため、ファンド単位でポートフォリオを分析するためには、データサービスから検索することが現実的であると言えるでしょう。

ということで、機関投資家解説シリーズの第1弾として、フィデリティについて簡単に解説しました。
次回は、キャピタルグループを取り上げて解説してみたいと思います。

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