秀逸なIRサイトの事例 〜Sansan〜

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代表取締役

吉田 有輝

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代表取締役

吉田 有輝

有限責任あずさ監査法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティングにて会計監査や財務デューディリジェンス等の業務に従事した後、ベンチャー投資会社の株式会社REAPRAにて投資先支援や投資実行、バリュエーション等を実施。2022年に株式会社Mutualを設立し、代表取締役に就任。 「決算書の読み方 最強の読み方(ソシム、2020年)」の著者。公認会計士。

企業価値を最大化するためには、優れたIR資料の作成や投資家への積極的なアプローチ、説明会への登壇等が必須となってきますが、同じように重要なのが「IRサイトのUI/UX」です。

基本的にほとんどの投資家は、どこかの企業に関心を持った場合、投資実行前にその会社のIRサイトに必ずアクセスします。決算短信や決算説明資料等の開示資料をはじめとして、トップメッセージや事業内容等、様々な情報を調べるためです。そのため、投資家が調べやすい、UI/UXの優れたIRサイトを構築することは極めて重要であると言えます。
しかし、IRサイトは自由度が高いため、どのように構築すればよいのかに悩むIR担当者も多いと思われます。そこで本記事では、筆者が個人的に秀逸だと思うSansanのIRサイトを取り上げながら、参考になるポイントを解説していきたいと思います。

1トップページに見てほしい情報が表示されている

まず、同社のIRサイトにいくと、トップページは以下のようになっています。

トップページのアイキャッチ画像とその下に、直近の決算発表日の情報が記載されています。これにより、通期決算の発表があったことがすぐに分かるようになります。
また、「詳しく見る」を押すと、以下のページに遷移するようになっています。

ここにIR関連の情報が整然と並べられていることから、見たい資料を即座に開くことができるようになっています。そのため、IRサイトを訪れた人の多くが通期決算に関する情報を閲覧できるような動線がうまく作られていると言えます。

また、トップページのアイキャッチ画像は自動で遷移するようになっており、統合報告書のページや個人投資家への皆様へのページ等、見てほしいページに移りやすいようになっています。

このように、トップページで見てほしい情報への動線づくりをうまく行っている点は非常に参考になると思われます。

2IRニュースページのカテゴリ分類が秀逸

続いて、IRニュースのページです。
同社のIRニュースのページにいくと、以下のような画面となっています。

ポイントは、赤枠に囲っているように、各ニュースを「カテゴリ別」、「年別」にフィルターをかけることができるようになっている点です。

IRニュースのページに「年別」もしくは「年度別」にフィルターをかけられるようになっていることはよくあります。しかし、カテゴリ別に分類されていないこともよくあり、その場合、IRニュースから見たい情報を探すのに手間がかかることがあります。そのため、カテゴリ別にフィルターをかけられる仕様になっている点はまず参考になるかと思います。

また、年度やカテゴリをプルダウンから選択する場合、2回クリックしなければなりませんが、一覧表示されていると1回のクリックで済むため、操作性に優れていると言えます。

このように、IRニュースのページのUI/UXが優れている点も参考になるのではないかと思います。

3トップページに「最新の決算資料」のアーカイブがある

SansanのIRサイトのトップページをスクロールダウンしていくと、以下のような「最新の決算資料」のアーカイブがあります。

これが存在することで、直近の決算に関するIR資料をすぐに確認することができるようになっています。このような仕様を採用している会社は他にもいくつか存在しており、例えばメルカリのIRサイトのトップページは以下のようになっています。

このように、IRのトップページに最新の決算資料のアーカイブを掲載することは、多くの企業にとって参考になるのではないかと思います。

4任意開示の項目が充実している

決算短信に加えて、決算説明資料を開示している会社は今やかなり多くなっているかと思いますが、先ほどの「最新の決算資料」を見ると分かるとおり、Sansanは決算短信と決算説明資料に加えて以下を開示しています。

  • 決算補足資料(Excel)
  • 決算説明会の動画
  • 決算において高い関心が予想される事項
  • 決算説明会の書き起こし

まず決算補足資料(Excel)ですが、これは連結PL・BS・CSとセグメント別業績について、年度と四半期ごとに数字がまとめられたエクセルデータです。

決算短信や有価証券報告書等の財務諸表には、2カ年もしくは2四半期分のデータしか掲載されていません。また利益率等のデータもないことから、基本的にはデータプラットフォームからエクスポートするか、手入力を行う必要があります。

ただ、このようにエクセルでデータが網羅的にまとめられていると、そのような手入力が最小限に抑えられ、また、モデルの作成もスムーズになります。そのため、このようなエクセルが開示されていると、機関投資家やアナリストに好感される可能性が高いと言えるでしょう。

次に決算説明会の動画と書き起こしですが、決算説明会の動画や書き起こしが掲載されていると、説明会に出席していなかった投資家もプレゼンテーションの内容や質疑応答の内容を知ることができます。同社は、ログミーファイナンスのYouTubeアカウントとサイトに、動画と書き起こしをそれぞれ公開しています。このような動画や書き起こしを公開される会社も増えてきていますが、開示することによって情報の非対称性を低減させるだけでなく、IRへの積極的な姿勢をアピールすることができるので、まだ公開していない会社はこちらも検討することが望ましいと言えます。

さらにSansanは、「決算において高い関心が予想される事項」というものを開示しています。決算資料を見たときに投資家が抱くであろう疑問点をあらかじめ解消しておくというものですね。IR面談や説明会での重複質問を避けることができることから、より建設的な対話に繋げることも期待できます。

このようにSansanは、任意開示がかなり充実していることがわかります。また、このような決算資料のみならず、同社は「IR Day」を実施した際の情報もかなりリッチに開示しています。

IRのリソースの観点からここまでの開示を行うことは難しい場合もあるかと思いますが、可能な範囲で開示の量を拡充していくことは非常に重要であると考えられます。

5事業内容をすぐに理解できるコンテンツが用意されている

初めて深掘りする会社のIRサイトに訪れた際、投資家が恐らくまず最初に知りたいのは「その会社がどのようなビジネスを手がけているのか」ということだと思います。しかし、多くの会社のIRサイトでは、この「何をやっている会社なのか」ということをざっくり知るための情報がなかったり、分かりやすい場所に配置されていなかったりします。

この点、SansanのIRサイトでは、「個人投資家の皆さまへ」のページが非常に充実しています。

特に、事業内容のセクションでは、同社のサービス内容と各サービスのビジネスモデル、会社としての競争優位性が簡潔に分かりやすくまとめられています。

このページを見ることで、Sansanのことを初めて分析する投資家も、効率的にSansanの事業内容等を理解することができます。
特に、BtoBの事業を展開している会社で事業内容が理解されにくい会社の場合、このような「個人投資家の皆さまへ」等のページや「新規投資家向け資料」を配置することで、自社の事業内容をざっくり理解してもらえるような動線づくりを行っておくことは非常に重要だと言えるでしょう。

6まとめ

本記事では、Sansanの事例を挙げながら、秀逸なIRサイトを構築するにあたってのポイントを解説しました。また別の記事で別のIRサイトの事例を取り上げていきたいと思います。投資家に好感されるIRサイトを構築するにあたって、本記事が少しでもお役に立てば幸いです。

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