IPO後の会社が取組むべきIR活動とは

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代表取締役

吉田 有輝

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代表取締役

吉田 有輝

有限責任あずさ監査法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティングにて会計監査や財務デューディリジェンス等の業務に従事した後、ベンチャー投資会社の株式会社REAPRAにて投資先支援や投資実行、バリュエーション等を実施。2022年に株式会社Mutualを設立し、代表取締役に就任。 「決算書の読み方 最強の読み方(ソシム、2020年)」の著者。公認会計士。

企業がIPOを果たすと、有価証券報告書や決算短信の開示等、これまではなかった仕事が色々生まれますが、その中の大きなもののひとつに「IR活動」があります。

しかし、上場企業のIR活動は、経理や財務、管理会計等と違って世の中にあまりノウハウが出回っておらず、かつどこまで積極的にやるかどうかは各社の判断に委ねられていることから、「上場してからどのようにIR活動を展開していけばよいかが分からない」と悩む会社は多いと思います。

そこで本記事では、IPOした会社が株式市場でしっかりと存在感を出し続けるために取組むべきIR活動について簡単にまとめていきたいと思います。

1なぜIPO後にIR活動に取組むべきなのか

まず、そもそもなぜIPOした後にIR活動を積極的に行っていく必要があるのかを説明しておきます。

下図は、2022年にIPOした会社の実際のチャートです。

IPO直後〜半年程は、株価が上昇しているものの、その後ズルズルと下がってしまっていることが分かるかと思います。もちろん全ての会社がこのようなチャートの形になるわけではありませんが、このような形状になることは非常に多いと言えます。
IPOしてからしばらくは、何もしなくてもある程度株式市場からの注目を集めることができるため、一定の出来高が形成されやすくなります。また、IPO時のオファリングサイズを絞ったことにより浮動株が少ない場合、少しの買い需要で株価が大きく上昇することがあります。

しかし、当然ながら無条件に市場から注目を集められる「ボーナスタイム」は長くは続きません。毎年100社程度の会社が上場してくる中で何も手を打たなければ、よほど強い業績を示さない限り株式市場の興味・関心はどんどん薄れていきます。
そうすると、出来高も細っていき、大口の新規の買いも集めにくくなり、どうにも株価が上がりにくくなるという状態になってしまいます。そのため、IPO直後の注目される期間中に、しっかりと資本市場に自社のユニークネスや成長性を示し、注目され続ける状態を構築していくことが極めて重要になります。

それでは、具体的にIPOした後の会社は何をやっていくべきなのでしょうか?
以降では、主要な「やるべきこと」を簡単にまとめていきます。

2IR面談のリクエストは基本的に全て受ける

IPOすると、さまざまな機関投資家やセルサイドアナリストからIR面談の要請を受けることとなります。そして、面談の初めに「御社の事業内容をまずは説明してください」と言われ、そして事業に関する基本的な質問を多く受けることとなります。

これを何度も繰り返していると、「何度も同じ説明をしていてかなり大変。。本当に全ての面談リクエストを受けるべきなのか?」と思いやすくなります。実際にこのような声は多く聞きます。
では、どうすればよいのでしょうか。相手先を見ながら面談可否を判断すべきなのでしょうか。

この点筆者は、IR面談のリクエストは可能な限り全て受けるようにすることが望ましいと考えています。同じ説明を何度も行うことは当然骨が折れますが、IR面談は投資家・アナリストと密にコミュニケーションを取れる貴重な機会です。ここで、「あ、この会社は面白いな」、「ここの経営者(もしくはCFOやIR担当者)は信頼できるな」と思ってもらうことができれば、その後も継続的に注目してもらいやすくなります。そうすると、IPOからしばらく時間が経っても一定以上の出来高が確保でき、コンスタントにIR面談の要請も入るようになります。

「短期目線の投資家には会いたくない」という声を聞くこともありますが、短期で売買する投資家も流動性をもたらしてくれる大切な投資家です。一番避けたいのは「誰からも興味を持たれなくなってしまう」ことなので、自社に関心を持ってくれている投資家・アナリストには、基本的に積極的に会っていくべきだと言えるでしょう。

3開示量を充実させる

投資家とのコミュニケーションにあたっての基盤となるのが、「情報開示」です。情報開示は「ディスクロージャー」とも言われますが、このディスクロージャーをできるだけ充実させることで、自社に対する投資家の理解を深めてもらうだけでなく、「IRに積極的な会社だ」という印象を株式市場から持ってもらうことが可能となります。以下で、具体的に開示すべきと考えられる項目をまとめておきます。

3-1マストで開示が必要だと言えるもの

まず、任意開示項目ではあるものの、最低限開示しておくべきだと考えられるものを挙げます。

  • 決算説明資料
  • 決算説明会の書き起こし
  • 決算説明会のアーカイブ動画

決算説明資料は、毎四半期開示する会社がかなり増えました。逆に言うと、決算説明資料が少なくとも半期に1回以上は開示していないだけで「あまりIRに積極的じゃないんだな」と思われてしまう可能性があります。そのため、決算説明資料の開示はマストだと言えるでしょう。

また、最近は決算説明会を実施した後、書き起こしと動画を開示する会社も増えています。決算説明資料はスライドで作成される場合がほとんどなので、そこでは伝わり切らないことが説明会で補足されるわけですが、書き起こしや動画を速やかに開示することで、説明会に出席できなかった投資家も何が話されていたのか、どのような質疑応答が行われたのかを確認することができるようになります。

書き起こしは、大きく以下の3パターンで作成されることが多いと言えます。

  1. ログミーファイナンスの書き起こしサービスを利用する
  2. Scripts Asiaの書き起こしサービスを利用する
  3. 自社で書き起こしを作成する

また、動画に関しては、自社、またはIR支援会社のサポートを受けて説明会の様子を撮影・録画し、その様子をYouTube等の動画プラットフォームにアップロートする流れが基本となります。この際、以下を行うことで投資家のユーザビリティを高められる可能性がある点に留意すべきだと言えます。

  • 質の良いカメラとマイクを使う
  • スピーカーは、できるだけカメラの方向を向いて説明する
  • Zoomで説明会を開催する場合、映像設定を「HD」にしておく
  • YouTubeに掲載する際は、チャプター区切りを入れる
  • 余力があれば、動画編集ソフトを使って事後編集し、見やすい動画にする

3-2できれば開示したいもの

マストではないものの、開示していると「あ、この会社はIRに積極的だな」と思ってもらえるような項目を以下に例示します。

  • 決算において想定されるQ&A
  • よくある質問と回答
  • 「新規投資家向け資料」等の、決算説明資料とは別の補足資料

決算において想定されるQ&Aは、決算発表と同時に、「恐らく今回の決算で聞かれるであろう質問とそれに対する回答」を開示してしまうものです。
例えば、「町田商店」や「豚山」等のラーメン店を展開するギフトホールディングスは、毎回決算発表と同時に「⚫︎年10月期⚫︎Q決算において想定されるご質問に対する回答」を開示しています。

また、印刷プラットフォーム「ラクスル」や運送マッチングサービス「ハコベル」等を展開するラクスルは、決算説明資料の中でFAQを開示しています。

それ以外にも、例えば「2024年3月期においてよく聞かれた質問と回答」といった形で、決算発表後のIR面談や説明会でよく出てきている質問とそれに対する回答を開示するという方法もあります。

次に、「新規投資家向け資料等の、決算説明資料とは別の補足資料」です。決算説明資料は、決算の説明だけで相応のページ数を割く必要があることから、自社の事業内容や戦略等を分かりやすく説明したスライドも入れるとかなりのボリュームになってしまいます。また、スライドの後半部分に載っていても、読み飛ばされてしまう可能性もあります。

そのため、決算説明資料とは別に「会社概要資料」や、「新規投資家向け資料」等を掲載することが望ましいと言えます。
例えば、ゲームセンター「GIGO」等を展開するGENDAは、自社の重要な戦略である「M&A」について詳細に説明した資料を別途開示しています。

このように、決算説明資料とは別に、自社の事業内容や戦略を深めてもらうための補足説明資料が開示されていると、投資家の理解促進に繋がり、自社のIRの取組姿勢の評価向上にも繋がることから、ぜひ参考にされてはいかがでしょうか。

4積極的に説明会を開催する

IR面談、ディスクロージャーに加えて、もう一つ投資家との重要なコミュニケーションの場として挙げられるのが、IR説明会です。
開示情報のみでは、投資家に伝えられることに限界があります。一方で、すべての投資家と個別にIR面談を行っていくことは非現実的です。そのため、多くの投資家を一同に集め、そこで自社の事業内容や戦略、ユニークネス等を説明したり、質疑応答の時間をとる「IR説明会」を実施することが有効となります。

IR説明会には、例えば以下のようなものがあります。

  • 決算説明会
  • 個人投資家向け説明会
  • 機関投資家・アナリスト向け説明会
  • 中期経営計画に関する説明会
  • 現場見学会

多くの会社が四半期毎、もしくは半期に1回決算説明会を開いているかと思いますが、それに加えて、自社のことをより深く知ってもらうための説明会を開催することが有効です。

例えば、先ほども例として挙げたGENDAは、「M&A進捗状況及び第1四半期見通しについて」という表題で、M&Aした会社が順調に成長しているかどうかを説明する場を設けています。また、その説明の様子は動画で公開され、質疑応答の書き起こしも公開されています。

また、「現場を知ってもらう」ための説明会を開催することも有効です。例えば、製造業を展開している会社であれば工場見学と説明会をセットで開催することが有効かもしれませんし、外食事業を展開している会社であれば実際にお店で試食会をした後に説明会を開催することが有効かもしれません。

それ以外にも、普段IRの現場に出ることのないCOO、CTO、CHRO等に説明会に登壇してもらうことも有効です。
例えば、金融機関向けに基幹システムの提供等を行っているFinatextホールディングスは、決算説明会にCHROやエンジニアを登壇させる工夫を行っています。

このように、通常の決算説明会に加えて、別途会社概要や特定のテーマに絞った説明会を開催したり、開催フォーマットを工夫することで、より自社のことを正しく株式市場に伝え、プレゼンスを高められる可能性があります。

5投資家データベースを作成しておく

上場すると、四半期ごとに様々な投資家やアナリストとIR面談を行なっていくことになります。また、決算説明会をはじめとしたイベントにも登壇していくことになります。

この点、面談履歴や議事録、メーリングリスト、イベント出席者リスト等の情報をしっかり記録しておくことが極めて重要になります。これらを記録しておくことで以下の分析が可能となり、IR活動を戦略的に進めやすくなるからです。

  • 四半期ごとのIR面談件数のトレンド
  • 誰といつ会って、何を話したか
  • よく聞かれている質問
  • 投資家・アナリストからの主なフィードバック
  • 最近会えていない投資家・アナリスト
  • 説明会に出席している一方で会えていない投資家・アナリスト

「IR活動は、営業だ」と言われることがありますが、営業でSFAやCRMを利用するように、IR活動でも投資家データベースを構築することが極めて重要になってきます。

しかし、実は多くの会社が、IRの面談履歴や議事録等に関する明確な管理方針を掲げないまま、エクセルやワード等を通じて管理しているという実態があります。そうすると、

  • 四半期ごとの面談回数を集計したり
  • 会えていない投資家を洗い出したり
  • 面談予定の投資家との過去の対話内容を確認したり

する作業に多くの時間をようしてしまい、戦略的なIR活動が推進しにくくなってしまいます。

そのため、可能であればIPO前のロードショーに先立って、投資家データベースを構築しておくことが重要になります。もし既にIPOをしている場合でも、まだ面談件数が積み上がっていない早い段階でデータベースを構築することが推奨されると言えるでしょう。

なお、当社では、Notionを利用した投資家データベース「IRデータベース」の構築支援を実施しています。もしご関心がある方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。

以下に顧客インタビューも掲載しているので、こちらもご参考までにぜひご覧ください。

6まとめ

本記事では、IPOをしたばかりの会社が取り組むべきIR活動についてまとめました。IPOした後も株式市場からの注目度を落とさず、適切な株価・出来高を形成していくためには、積極的なIR活動がきわめて重要になってきます。本記事でまとめた内容が、企業価値の最大化に向けたIR活動に少しでも役立てば幸いです。

7Mutualの支援について

当社は、決算説明資料や成長可能性資料、中期経営計画等のIR資料の作成支援や、企業価値向上に向けた戦略的なIR活動を推進するためのIRコンサルティング等のサービスを提供しています。

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