オアシス・マネジメントの株主提案傾向からみるガバナンス向上に向けた取り組み

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代表取締役

吉田 有輝

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代表取締役

吉田 有輝

有限責任あずさ監査法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティングにて会計監査や財務デューディリジェンス等の業務に従事した後、ベンチャー投資会社の株式会社REAPRAにて投資先支援や投資実行業務、バリュエーション等を実施。 2022年に株式会社Mutualを設立、代表取締役に就任。創業来、IR支援を中心に事業展開している。 「決算書の読み方 最強の読み方(ソシム、2020年)」の著者。公認会計士。

前回のストラテジック・キャピタルに引き続き、今回はオアシス・マネジメントがテーマです。経営・ガバナンス面に働きかけるオアシス・マネジメントの動向を通じて、企業にとって安全性の高いガバナンスとはどのようなものかを探っていきます。

1オアシス・マネジメント側の傾向

2026年の株主総会でオアシス・マネジメントから出された株主提案は5社に対し計10件でした。

内訳としては、役員変更に関する提案が最も多く、次いで定款変更、自己株式取得による株主還元となっていました。

SHAREHOLDER PROPOSALS / ANALYSIS

2株主提案の分析:提案内容と得票率の傾向

提案内容内訳BY TYPE
60% 役員変更
  • 役員変更60.0%
  • 定款変更30.0%
  • 自己株式取得10.0%
  • 役員変更が全体の60%を占める
  • 次いで定款変更、自己株式取得が続く

オアシス関係者を役員にし、経営に介入する傾向

得票率の分布BY VOTE SHARE
66.7% が得票率20%以下
  • 〜10%11.1%
  • 11〜20%55.6%
  • 21〜30%33.3%
  • 得票率20%以下が多く、高い得票率は得ていない
  • 一方でISS、グラスルイスからの賛同を得た提案も

経営方針への介入は投資家の警戒心もあり障壁は高い

出典:(一次情報のリンクを記載)

このことから、オアシス・マネジメントは株主還元よりも経営陣にオアシス推薦者を参入させることによるガバナンス介入を主目的とした活動方針を取っていると見られます。

また、役員変更についてはISSやグラスルイスからの賛同を得た提案もあり、第三者から見ても合理的と判断された提案も少なくありません。たとえば、京セラへの「現会長の解任」および「オアシス推薦者の社外取締役就任」という提案は二つとも、ISSとグラスルイスの推奨を得ています。

一方で賛成率に関しては30%を超えたものはなく、一般的な株主提案の賛成率が10~20%未満であることを踏まえるとやや高いものの、オアシス関係者が経営陣に入ることへの投資家の警戒感がうかがえます。ただ、オアシスの役員変更の提案のうち、ISS・グラスルイスの賛同を得たものには波及効果も大きく、KADOKAWAの夏野CEOの信任票は前年度の90.26%から59.68%へと大幅に低下するなど、水面下でガバナンスの改善をせざるを得ない状況になっています。

このことから、オアシス・マネジメントはガバナンス改善を主な目標として働きかける有力なアクティビストと言えるでしょう。

 

3提案を受けた会社側の傾向

オアシス・マネジメントから提案を受けた全5社について、平均PBR 1.15、平均ROE  6.5%、平均ROIC  6.06%、平均自己資本比率  64.5%となりました。

SHAREHOLDER PROPOSALS / TARGETS

4株主提案を受けた企業

COMPANIES / 5社

  • エクシオ
  • 京セラ
  • 小林製薬
  • ミライト・ワン
  • コムシスホールディングス

平均PBR

1.15

1倍は上回る水準

平均ROE

6.5%

8%の目安を下回る

平均ROIC

6.06%

資本コストの目安と拮抗

平均自己資本比率

64.5%

資本が厚く、余剰が意識されやすい

数値は対象5社の単純平均。

会社側の傾向として特徴的であったのがPBRの高さです。特に小林製薬については、2025年3月時点でのPBRが2.18と非常に高かったのにも関わらず、ガバナンス面に課題があるとしてオアシス・マネジメントから株主提案を受けており、社外取締役が取締役会の議長になることについての提案は最大で26%の賛成票を得ています。また、エクシオについては、2025年3月時点のPBRは1.08と、東証の勧告した1倍は上回っているものの、オアシス・マネジメントは経営陣の関係他社からの天下りにより専門性が企業の展開業界と合致していない、と主張し、より専門性の高い推薦者を提案しています。

このことから、ただ単にPBRを改善するだけでは不十分であり、ガバナンスの正当性を投資家に示し続けることが求められていると考えられます。

5ケーススタディ(小林製薬の場合)

今回の2026年3月に行われた小林製薬の株主総会では、2024年に発生した「紅麴」問題および、その後の小林製薬との対話を受け、複数のガバナンス改革が提案されました。企業の方針や社風が大きく転換した小林製薬を対象に、オアシス・マネジメントの関与とガバナンス改革について考察します。

5-12024年:「紅麴」問題の発生

(TBS News Digより)

小林製薬の販売する紅麴を使用したサプリメントについて、青かび由来成分による健康被害が報告され、2024年3月下旬に自主回収が行われました。この件を受け、問題発覚から実際の対応に時間差があった経営ガバナンスに対する不安感などから、6000円台の株価が一時は5000円台まで値下がりするなど市場でも大きな動きがありました。

そして、この混乱のなか、オアシス・マネジメントは小林製薬の株を急速に買い増しし、報告書から5%の保有が判明しました。ところが、オアシス・マネジメントは問題発生からすぐに株主提案を出したわけではありません。表立った動きはなく、書簡や対談を通じて経営陣との地道な対話を続けました。

その結果、7月には創業家の会長および社長が引責辞任をし、創業以来初の生え抜き社長の就任という、ガバナンスの大きな転換が起こりました。しかし、オアシス・マネジメントによるガバナンス改善要求は継続し、12月に臨時株主総会の招集を求め、株主提案に踏み切ります。

5-22025年:株主提案の開始

2025年2月、臨時株主総会の場でオアシス・マネジメントは「紅麴」事件に係るガバナンスが不透明だと主張し、ついに提案を提出します。

オアシス・マネジメント臨時株主総会資料2025年14ページ

内容は、「紅麴事件の再調査を行う調査者の選任」および「3名の新たな独立社外取締役の選任」であり、全て20%台後半の賛成率で否決されています。

しかし、翌月に行われた定時株主総会において、取締役候補が全員90%未満の賛成率で選任されるなど、オアシス・マネジメントが株主提案という形でガバナンス体制に対して一石を投じたことによる効果は現れていると考えられます。

そして、後に2026年の提案でガバナンス上の課題の一例として取り上げられる一件もこの総会で起こっています。 小林製薬から出された、「取締役会の招集及び議長を社外取締役が行う」という内容の定款変更提案が52%台の賛成率で否決されたのです。

5-32026年:繰り返される株主提案と小林製薬の対処

2026年の定時株主総会において、オアシス・マネジメントは定款変更及び監査役選任の形式で4件の提案を出します。

定款変更変更内容としては、


① 取締役会の招集、議長を社外取締役が務めること
② 当社本部長及び事業部長作成のマンスリーレポートは、可能な限り速やかに、これを社外取締役に共有すること ③ 当社においては、「商品の品質、安全管理はすべてに優先する」ことを、基本方針とし、役職員一人ひとりが、商品の品質に関する事故を決して発生させることのないよう、安全衛生管理を徹底すること

の3つでした。

1つめの提案は昨年小林製薬から出された提案とほとんど同じ内容であり、社内外からガバナンスの実効性が求められていたことが伺えます。一方、オアシス・マネジメントは昨年度の株主総会において、同様の提案が小林製薬から出されたにもかかわらず否決された理由として創業家株主の反対を挙げています。

 もちろん、全ての会社において創業家が経営を受け継ぐことに問題がある、というわけではありませんが、アクティビストにとって現経営陣と創業家の間合いは、ガバナンス面について指摘する際に論点として取り上げやすいものであると言えます。

5-4小林製薬の3つの改革

小林製薬の経営陣は、新たな経営体制のもと「紅麴」問題からのいち早くの回復を目指し、大規模な社内改革を行いました。

GOVERNANCE / TURNAROUND

6小林製薬の三つの改革

01
改革 01
経営体制の刷新とガバナンス改革
  • 創業家による経営から外部専門家・生え抜き社員による経営へ
  • 監査等委員会設置会社へ移行し取締役会の監督機能を強化
ガバナンスの実効性強化
02
改革 02
品質徹底と「新小林製薬」に向けた意識改革
  • 研究開発から製造現場までの一連の連携を強化
  • 品質保証体制の抜本的な見直しを実施
  • 座談会や社長による現場訪問で社員との直接対話を促進
経営陣と現場の連携強化
03
改革 03
事業構造の改革
  • 経営における2035年ビジョンを発表
  • 製品数削減による主力商品への資本集中とコスト効率向上
  • アジア・欧州ヘルスケアM&Aを通じたグローバル展開
営業利益の回復を目指す

経営体制の刷新とガバナンス改革

小林製薬が代々行ってきた創業家による経営から外部専門家や生え抜き社員による経営へと舵を切りました。また、指摘を受けてきた監査体制についても、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行することで取締役会に監査役が参加できるようにするなど、ガバナンスの実効性強化に努めました。

品質徹底と「新小林製薬」に向けた意識改革

研究開発から製造現場までの一連の連携を強化し、課題として指摘されていた、品質保証体制の抜本的な見直しに取り組みました。また、全社員を対象とした座談会の実施や社長による現場訪問・社員との直接の対話などを通じて、経営陣と現場の連携強化や風通しの良さなどに努めるとともに、その姿勢を社内外に示しました。

事業構造の改革

経営における2035年ビジョンを発表し、「お客様の“あったらいいな”を発見し“これがないと困る”と感じていただける製品を創造する」企業を目指すことを社内外に示すとともに、新たに中期経営計画を発表しました。この中期経営計画では、コスト効率向上を目指した製品数三割減による主力商品への資本集中や、アジア、欧州圏のヘルスケアM&Aを通じたグローバル展開など、企業展開方針を変更し、営業利益回復を目指しています。

7その他の会社への株主提案のいきさつ

7-1エクシオ、ミライト・ワン、コムシスホールディングス

これら三つの企業はすべて情報通信系であり、業界全体の株価が成長している中で、株価成長が緩やかであり、事業構造や経営陣の専門性に成長の余地があると判断されたため、オアシス・マネジメントが参入しました。

三社ともに同業他社と比較して株価成長が緩やかである点や、経営陣の多くをNTT出身者が占めていることから専門性や経営の客観性、ガバナンスに懸念があると指摘し、オアシス・マネジメントが推薦する取締役を提案しましたが、エクシオは10%未満、ミライト・ワンとコムシスホールディングスは20%未満で否決されました。

7-2京セラ

オアシス・マネジメントは2015年より長期株主として投資を継続しています。京セラが持つ優れた事業ポテンシャルや豊富な保有資産を踏まえ、さらなる資本効率の改善や中長期的な企業価値の向上を目指し、「現会長の解任」「オアシス推薦者の取締役就任」「3500億円の自社株買い」の三つを提案しました。

人事に関する提案二つはISSとグラスルイスの推奨を得ましたが、いずれも25%以下の賛成率で否決されました。また、自社株買いの提案も20%未満の賛成率で否決されています。

8まとめ

ガバナンス改善を主張するアクティビストにとって、経営上重大な問題が生じ、株価が下がったタイミングは最も買い増しによって参入しやすい好機であり、提案が出された際には可決/否決といった結果そのものよりも、経営陣の選任得票率などの形での影響が見込まれます。

経営にあたり、創業家との間合いの取り方やガバナンスの透明性、実効性を先回りして見直すことで、このようなガバナンス改善を求めるアクティビストの予期しない指摘を防ぐことができるとともに、ひいては少数株主や一般消費者に対する社会的印象の向上に繋げることができると言えるでしょう。

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