「業績予想の下方修正」開示の出し方3パターンと株価への影響について

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代表取締役

吉田 有輝

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代表取締役

吉田 有輝

有限責任あずさ監査法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティングにて会計監査や財務デューディリジェンス等の業務に従事した後、ベンチャー投資会社の株式会社REAPRAにて投資先支援や投資実行業務、バリュエーション等を実施。 2022年に株式会社Mutualを設立、代表取締役に就任。創業来、IR支援を中心に事業展開している。 「決算書の読み方 最強の読み方(ソシム、2020年)」の著者。公認会計士。

業績予想の下方修正は、どの会社にとっても気の重い発表です。ただ、その「出し方」を見ていくと、いくつかの型があることに気づきます。この記事では2023年〜2026年に下方修正を発表した6社を、タイプ別に2社ずつ、発表前後の株価チャートとともにご紹介します。

先に断っておくと、これは「この型を使えば株価が下がらない」という処方箋ではありません。どの会社も、程度の差はあれ発表直後は株価に影響を受けていますし、中期的に見れば株価が下方修正前の水準を大きく下回ったまま戻っていない会社もあります。ここで整理したいのは効果の有無ではなく、下方修正という同じ行為が、実際には何通りかの異なる「見せ方」で行われている、という事実です。

1タイプ①:事前に下方修正の可能性を伝えておく

1つ目は、正式な下方修正の前に、悪材料の芽を先に見せておくやり方です。ホンダとインフォメティスは、どちらもこの型に当てはまりますが、伝え方の具体性が対照的な2社です。

1-1ホンダ(7267):具体的な「最悪値」を先に置く

ホンダ(7267)
1,2121,3481,4841,6201,75525/0325/0725/1026/0226/0526/093/12 下方修正警告(最大▲6,900億円)5/14 本決算(実績▲4,239億円)
2025年3月〜2026年9月。オレンジの点線は3/12(下方修正警告)と5/14(本決算)です。
出典:四輪電動化戦略の見直しに伴う損失の発生および通期連結業績予想の修正と今後の方向性について

ホンダは2026年3月12日、引け後に「通期最終損益、黒字3,000億円の予想から最大6,900億円の赤字もあり得る」という下方修正警告を発表しました。翌営業日(3/13)は終値ベースで-5.56%、その後も3月末にかけて下げが続き、発表前水準から約13%下落しています。ここまでは素直な「悪材料に売りで反応」と言えるでしょう。

2ヶ月後の5月14日、本決算での実際の最終赤字は4,239億円でした。上場来初の赤字ではあるものの、3月に示した最悪シナリオ(6,900億円)よりは2,661億円小さい着地でした。株価は発表当日+3.77%、翌日さらに+8.33%と2日連続で上昇し、6月中旬には3月の下落分をほぼ全戻ししています。3月の警告が「最大6,900億円」という具体的な数字を伴っていたことで、5月の実績と比較できる基準点になった、というのがこの2段階の開示の特徴です。

1-2インフォメティス(281A):「可能性がある」という表現の伝わり方

インフォメティス(281A)
1906431,0951,5472,00024/1225/0425/0826/0126/0526/0910/22 修正可能性を先行開示11/13 正式下方修正+役員報酬減額
2024年12月(上場)〜2026年9月。オレンジの点線は2025/10/22(修正可能性の先行開示)と2025/11/13(正式下方修正+役員報酬減額)です。

インフォメティスは正式な下方修正の3週間前、2025年10月22日に「下方修正の可能性がある」という先行開示を行いました。形としてはホンダと同じ「事前に伝える」動きですが、この先行開示自体が翌営業日のストップ安を招いています。3週間後の11月13日、売上高66.3%減・経常赤字転落という正式な下方修正(役員報酬減額も同時開示)が出た時点では、株価はすでに大きく下げた後でした。月次で見ると、10月に1,273円だった株価は11月末には494円まで、2ヶ月弱で6割以上下落しています。

ホンダとインフォメティスの違いは、事前に伝えた情報の具体性にあります。ホンダの先行警告は「最大6,900億円」という下限を示していたのに対し、インフォメティスの先行開示は「可能性がある」という言葉に留まっていました。当然ながら市場や会社のサイズ、事前の期待値の差による影響も無視できませんが、同じ「事前に伝える」型でも、数字を伴うか伴わないかで市場の受け止め方は大きく変わりうる、という一例と言えるのではないでしょうか。

2タイプ②:下方修正と同時に別の好材料を出す

下方修正を発表する同じ日に、それとは性質の異なる好材料を並べて出すやり方です。スズキとINTLOOPは、どちらも「一つの数字は悪いが、もう一つは良い」という組み合わせを使っています。

2-1スズキ(7269):営業益の下方修正に合わせ、増配および純益の上方修正を開示

スズキ(7269)
1,5891,8212,0542,2862,51825/0525/0825/1126/0326/0626/095/14 計画発表(+5円増配)8/5 営業益を追加下方修正(純益は上方修正)
2025年5月〜2026年9月。オレンジの点線は5/14(27年3月期計画+5円増配)と8/5(営業益の追加下方修正+純益の上方修正)です。

スズキは2026年5月14日、27年3月期の通期計画として営業利益8.5%減・純利益13%減という保守的な計画を発表すると同時に、期末配当の5円増配を発表しました。株価は前日比+6.19%でした(ただしその後-3.98%の反落もありました)。

さらに8月5日の第1四半期決算では、営業利益計画を5,700億円から5,400億円へ再び下方修正した一方、純利益計画は3,800億円から4,200億円へ上方修正しています。株価は日中に一時-5.1%まで下げましたが、終値では前日比+1.16%まで戻しました。「一つの指標は下方修正、別の指標は上方修正」という組み合わせが、その日の下げを吸収した形です。

2-2INTLOOP(9556):下方修正と自社株買いを同時に出す

スズキ(7269)
1,5891,8212,0542,2862,51825/0525/0825/1126/0326/0626/095/14 計画発表(+5円増配)8/5 営業益を追加下方修正(純益は上方修正)
2025年5月〜2026年9月。オレンジの点線は5/14(27年3月期計画+5円増配)と8/5(営業益の追加下方修正+純益の上方修正)です。

INTLOOPは2026年6月12日午前、経常利益予想を32億円から14億円へ(56.3%減額)下方修正すると同時に、上限19万株・3億円の自社株買いを発表しました。発表直後は前日比-14.5%まで急落し年初来安値を更新しましたが、その後買い戻され、当日終値では-3.63%まで戻しています。1週間後には発表日終値を上回る水準まで回復し、1ヶ月後、2ヶ月後も戻り基調が続きました。

3タイプ③:下方修正と同時に役員報酬の減額を出す

下方修正と同時に、経営陣が自ら役員報酬(賞与)を減額すると発表するやり方です。

3-1モンスターラボHD(5255):赤字転落および役員報酬減額の発表

モンスターラボHD(5255)
733406078741,14123/0323/0623/1024/0124/0524/088/14 赤字転落+役員報酬減額
2023/8/14 赤字転落+役員報酬減額。翌日・翌々日と2日連続ストップ安、1ヶ月後には発表前比-55%でした。

3-2クラダシ(5884):減益および役員報酬減額の発表

クラダシ(5884)
17634250867484023/0623/1124/0324/0824/1225/055/9 経常42%減+役員報酬減額
2024/5/9 経常42%減+役員報酬減額。翌日-13.5%、2週間で-26%まで悪化した後、下げ止まりました。

モンスターラボHDは2023年8月14日、最終損益が黒字予想から赤字に転落する下方修正を発表し、同時に役員報酬の減額も開示しました。株価は翌営業日、翌々営業日と2営業日連続でストップ安となり、1ヶ月後には発表前比で-55%まで沈んでいます。

クラダシは2024年5月9日、経常利益42%減の下方修正と役員報酬減額を発表しました。発表前日はむしろ堅調(+4.7%)でしたが、引け後の開示を受けて翌日-13.5%、その後も下値を探る展開が続き、2週間で-26%まで下落した後、ようやく下げ止まっています。

この2社はいずれも発表後に大きく売られており、役員報酬の減額というアピールが下落を吸収した形跡は今回の範囲では確認できませんでした。配当維持・増配(タイプ②)が「これから会社に残るお金」についての約束であるのに対し、役員報酬の減額は「すでに起きたことへの経営側の対応」を示すものであり、株価への働きかけ方としては性質が異なる、という違いとして見ておきたいと思います。

4まとめ

ここまで見てきた3つの型には、優劣はありません。同じ「下方修正を発表する」という行為の中に、少なくとも次の3通りのやり方が存在する、という整理です。

①は、正式発表の前に悪材料の芽を先に見せておくやり方です。ただしホンダとインフォメティスの対比が示す通り、「事前に伝える」こと自体よりも、そこに具体的な数字が伴っているかどうかで市場の受け止め方は変わりうると考えられます。

②は、下方修正と同時に性質の異なる好材料(増配、自社株買い、他指標の上方修正など)を並べるやり方です。スズキとINTLOOPはいずれも発表直後の下げを一定程度吸収していますが、中期的にどこまで株価水準を維持できるかは会社ごとに差があります。

③は、経営陣が役員報酬の減額という形で自ら対応を示すやり方ですが、今回確認した2社を含む多くの会社では、いずれも発表後に大きく売られており、他の2つの型と比べて株価の反応という点では異なる結果になっています。

いずれの型も、下方修正という悪材料そのものを消すことはできません。できるのは、その悪材料がどういう情報と一緒に、どういう順序で市場に届くかを設計することだけです。この記事の目的は、その設計にどんなバリエーションがあるかを実際の株価の動きとあわせて記録しておくこと、そして実際に下方修正の開示を出す場合に、自社にあった開示の仕方はどのパターンなのかを想定しておくことにあります。

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