ストラテジック・キャピタルの株主提案傾向から見る資本効率向上の道筋

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代表取締役

吉田 有輝

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代表取締役

吉田 有輝

有限責任あずさ監査法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティングにて会計監査や財務デューディリジェンス等の業務に従事した後、ベンチャー投資会社の株式会社REAPRAにて投資先支援や投資実行業務、バリュエーション等を実施。 2022年に株式会社Mutualを設立、代表取締役に就任。創業来、IR支援を中心に事業展開している。 「決算書の読み方 最強の読み方(ソシム、2020年)」の著者。公認会計士。

東証のPBR改善要求から早3年、アクティビストの動向は活発化し、今年の株主総会では株主提案件数が過去最高を記録しました。

一方では、高市政権がアクティビストの短期利益を目的とした株主提案に対する警戒を強めるなどの動きもあり、現在アクティビスト関連の動向が激しくなっています。

そこで今回は数あるアクティビストのうちストラテジック・キャピタルに着目し、2026年に出された株主提案を基に、ストラテジック・キャピタルそのものや提案を受けた企業について分析していきます。

1ストラテジック・キャピタル側の傾向

ストラテジック・キャピタルの2026年の株主提案は10社に対して37件であり、内訳および得票率は以下の図のようになりました。

提案内容内訳

最多は定款変更 56.8%
定款変更56.8%
配当追加16.2%
自己株式取得10.8%
役員変更5.4%
開示5.4%
その他5.4%
  • 定款変更が全体の半分超(56.8%)を占める
  • 次いで配当追加、自己株式取得が続く

株主への還元を重視する傾向

得票率の分布

得票率30%以上 31.4%
議論せず37.1%
41〜50%17.1%
31〜40%14.3%
21〜30%17.1%
11〜20%11.4%
〜10%2.9%
  • 得票率30%以上の提案が約3分の1を占める
  • 会社が事前に提案を受け入れ、議論されなかった事例も

株主還元重視の提案は、非常に投資家の賛同を得やすい

ストラテジック・キャピタルから株主提案を受けた会社の中には、株主総会前にストラテジック・キャピタルの意向を取り入れる会社もあり、それを受けてストラテジック・キャピタル側が提案を取り下げる、といった事例も見られます。

得票率30%以上の提案も多くみられ、ストラテジック・キャピタルによる提案は非常に影響力が強いと考えられます。

この影響力の高さの要因の一つとしては、ストラテジック・キャピタルの提案内容には株主還元を目的としたものが大半を占めており、投資家からの賛同を得やすい、といったことが挙げられます。

このような傾向から、ストラテジック・キャピタルは株主還元に関して積極的に踏み込んだ提案を出すアクティビストであると言えるのではないでしょうか。

2株主提案を受けた会社の傾向

ストラテジック・キャピタルから受けた提案に30%以上の賛成票が集まった会社においては平均PBR 1.02、平均自己資本比率 61.6%となりました。また、平均ROE5.48%、平均ROIC3.84%となりました。

中でも特徴的なのは、自己資本比率の高さとROEの低さです。ストラテジック・キャピタルは、資金を溜め込んでおり、株主目線での資金効率が悪い企業にとって、ため込んでいた資金を自社株買いや配当増額などで株主に還元するよう求める方針を取っています。

これにより、PBRが圧倒的に低いとは言えない会社であっても、株主から見て株主に還元されるべき余力がある状態だと判断されれば、株主提案に30%以上の賛成が集まる、という構造が生じています。

このことから、ストラテジック・キャピタル対策においては自己資本比率の低減およびROEの向上が核心であると考えられます。

3ケーススタディ(日産車体、日産自動車の場合)

日産車体は2024年以降毎年、ストラテジック・キャピタルからの株主提案を受けており、親会社である日産自動車とともにストラテジック・キャピタルが積極的に関与している企業です。

3-12024年 (PBR 0.83倍、ROE 0.23%、自己資本比率67.5%)

ストラテジック・キャピタルから最初に出された提案は「少数株主の保護」でした。

ストラテジック・キャピタルは、日産車体は日産自動車の子会社であり、その資産の大半を日産自動車に貸付金として提供していることから資本効率が非常に悪く、また取締役に日産自動車関係者が天下り的に就任していたことから会社としての独立性すら著しく損なわれていると主張しました。

このように日産と一般株主の間で利益相反が起きているにもかかわらず、日産の保有割合がおよそ50%と高いことから改善に向けた株主提案が否決されてしまう、という状況にありました。

そこでストラテジック・キャピタルは「少数株主保護委員会」を設けるように定款変更を要求しました。

この株主提案は結果として否決に至りましたが、定款変更という難易度の高い提案であるにも関わらず35.4%と高い得票率で賛成票を集めました。

また、総会後の9月に親会社の日産自動車宛てにMBOを促す書面を送るなど複合的な観点から日産車体の株主還元を実現させようとしています。

3-22025年 (PBR 0.79倍、ROE 1.73%、自己資本比率 65.4%)

翌年2025年もストラテジックキャピタルは積極的に活動しています。

まず、2024年の書面に引き続き、再びMBOを促す書面を日産自動車に向けて書面を送付しました。

2025年には親会社である日産自動車に対して株主提案が出されました。親会社に対するアプローチを通して根本的な構造改革を図ったのです。

日産自動車に対して出された提案は形式としては定款変更であり、内容としては、

・年に一度、日産が保有する関連上場企業の株式について、日産が株主価値や企業価値に貢献しているかを検討し結果を開示すること

・上場廃止の恐れがある関連上場企業については迅速に対応を進めること

というものでした。

大株主である日産自動車の反対があったために、少数株主内では72%にも及ぶ賛同が得られたにもかかわらず否決に至ったという、昨年の日産車体への株主提案の結果を受け、より根本的に介入する方針に舵を切ったのではないかと考えられます。

今回の株主提案は、どちらも賛成率10%未満と、得票率が高いとは言えない結果になりましたが、総会後にストラテジック・キャピタルから日産自動車向けて、再度MBOを促す書面が送付されています。

3-32026年(PBR 0.7倍、ROE 3.83%、自己資本比率 66.3%)

3年目の2026年、ストラテジック・キャピタルは株主還元に向けてより直接的なアプローチを取ります。

日産車体に向けて、別途積立金を取り崩しと、それによって生じた資産全てを配当に充てることを提案しました。

これまでの2年間と比較してより株主還元に直結しやすいこれらの提案は、結果として否決には至ったもののどちらも約34%と得票率が高く、今後もストラテジック・キャピタルの働きかけは継続すると考えられます。

 

4まとめ

ストラテジック・キャピタルは株主還元重視の積極提案型アクティビストとして、様々な側面から株主還元を追及しており、その賛成率も高いという傾向にあります。

PBR以外にも注意が必要な指標

企業 PBR ROE ROIC 自己資本比率
A社 1.1 1.2 2.4 67.6
B社 1.2 8.5 3.3 72.5
C社 1.3 9.7 5.6 59.8

単位:PBRは倍、ROE・ROIC・自己資本比率は%

指摘・課題の背景

PBRは1を超えているが、、

自己資本比率、ROE/ROICといった指標も総合的に見て、資本コストを恒常的に上回る生産性を出せているかという視点が重要

A社、B社、C社に対して出された提案には30%以上の賛成票が集まりました。PBRが1を超えている一方で、他の指標、特に自己資本比率の高さに課題があると指摘されるに至ったのです。

このことから、PBR以外の指標にも注意する必要があると言えます。

PBR向上のみならず、ROE/ROIC向上や自己資本比率の低減にむけた取り組みをし、先回りしてキャッシュのため込みを減らして株主に還元していくことで、予期していないアクティビストからの提案を未然に防ぐことができると考えられます。

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